健康で快適な住まいづくりをするためには、住宅の断熱性能が重要です。 特に開口部(窓・玄関ドア)は住宅の中で熱の出入りが一番多い場所で、夏の住宅の中に入ってくる熱の約73%、冬の住宅から外へ逃げてしまう熱の約58%を占めます。 日本の住宅の断熱性能は世界的に見て遅れており、断熱性能が健康や快適性を左右するため、窓を高断熱な仕様にすることは喫緊の課題です。 今回は、窓の断熱性能と熱貫流率(U値)についてご紹介します。
日本の窓断熱の現状
多くの国では窓断熱の重要性が認識されており、窓の断熱性能を示す熱貫流率(U値)に関して厳しい基準が設けられています。 しかし日本では、熱貫流率(U値)の最低基準が設けられておらず、いまだにアルミサッシに単板ガラスといったタイプの製品を販売することが許可されています。
環境省が行った「令和2年度家庭部門のCO2排出実態統計調査資料編(確報値)」で、二重サッシまたは複層ガラスの窓の有無を調べたところ、56%が「ない」と回答しています。 日本に6200万戸あるといわれる住宅のうち、一部も含めると75%である4650万戸で断熱性能の低い窓を使用しているということになります。
U値(熱貫流率)とは?
窓や玄関ドアの断熱性能を示す熱貫流率は、U値で示します。 U値は、窓やドアなどの各部材がどれだけ熱が伝えるかを示す値のことで、W/㎡Kという単位で表します。 窓の熱貫流率はUw、ドアの熱貫流率はUdと表記され、U値が小さければ小さいほど熱を伝えにくく断熱性能が高いとされます。 似たような言葉に熱伝導率があります。 熱伝導率は、1つの物質内の2地点間における熱の伝わりやすさを示しており、単位はW/mKで表します。 対して熱貫流率は、室内と室外の熱が窓やドアなどの部材を通してどれだけ通過するかといったことを表します。 熱は自然な状態では温度の高いところから温度の低いところへ伝わるため、住宅の断熱性能を高くすることで夏の暑い気温の影響を少なくし、冬の暖めた室温が外へ出て行ってしまう事を防ぐことができます。 また、熱貫流率が高い部材は熱が通りやすい材質であるため、温度差によっては結露が発生しやすくなります。
窓の性能表示制度とJIS基準
日本では窓の断熱性能は★の数で表しており、★の数が多い=U値が低いほど断熱性能が高くなります。 2011年に経済産業省が定めた窓の等級は4段階で評価され、最高レベルが星4、U値=2.33W/㎡K以下という基準でした。 この日本の基準は、最高レベルにもかかわらず世界各国の最低基準よりもゆるい水準でした。 どの国でも暖房にかかるエネルギーは大きな比率を占めており、暑さの73%、寒さの58%を占める窓の断熱性能の向上は、エネルギー消費を減らす意味において必要です。 窓の性能表示制度はJIS等級を参照しており、JIS等級が2021年に改正され上位等級と日射熱取得率の評価指標が追加されています。 そのため、2023年度より窓の性能表示制度が見直され、最高レベルが星6、U値=1.1W/㎡K以下という世界各国にも劣らない水準となりました。 ただし、星1でU値=4.7W/㎡Kと基準が低いことには注意が必要です。
窓の日射熱取得率
窓の日射熱取得率とは、窓がどれくらいの日射量を透過するかの割合を表します。 窓には⽇射熱を取り⼊れる役割と遮る役割の両⾯があり、日射熱取得率を高くするか低くするかは、地域や方角、お部屋の用途によって変わってきます。 ⽇射熱取得率は3つのマークで表⽰し、窓の⽇射の取り⼊れやすさの程度で区分され、数値が大きいほど多くの熱が室内に入り、遮蔽性能が低いことを意味します。
住まいの断熱対策は、国を挙げて推進されている
日本では、2050年カーボンニュートラルの実現に向けた取り組みをしています。 2030年度までに温室効果ガスを46%削減することを目標としており、新築される住宅についてZEH水準の省エネ性能が確保され、新築戸建住宅の6割に太陽光発電設備が導入されていることを目指すべき姿として設定しています。 新築住宅の断熱性能は等級5~7が創設され、2025年4月以降今まで最高等級であった等級4以上が義務付けられます。 基準を満たすために、外壁や屋根はもちろん、窓や玄関ドアも断熱性能の高いものにする必要があります。 また、リフォーム・リノベーションにおいても補助金を出しており、代表的な先進的窓リノベ事業の補助の対象となるためには、窓・玄関ドアのU値は1.9W/㎡K以下の性能でなければなりません。 2050年までに既存住宅を含めた住宅の平均で、ZEH水準の省エネルギー性能の確保としているため、今後も住宅の断熱性能の向上に向けた取り組みが行われていきます。
まとめ
日本の住まいは、欧米やアジアの先進諸国と比べて断熱性能が低く、寒さが問題となっています。 特に高齢化が進む日本では、部屋間の温度差によるヒートショックが要因で起きる浴室での死亡事故は年々増加傾向にあり、体調へ及ぼす健康面、結露等の快適性への影響から見直しの必要性に迫られています。 断熱性能の良い窓にリフォームすることでイニシャルコストはかかりますが、冷暖房費等の省エネの観点からランニングコストが下がることで、ライフサイクルコストの低減が期待できます。 補助金等を上手に使って、健康で快適な住まいづくりを実現しましょう。
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