「ママ、おじさんがね。
"キレイでしょ"って、にっこり笑って
お花を包んで、渡してくれたのよ。」
それを聞いて、飛び上がるほど嬉しかったのです。
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とある、よろず屋さん。
近所の方は、老夫婦二人で営む"八百屋さん"を
とても頼りにしていました。
メインの売り物は、野菜や果物、手作りのお惣菜。
バイクで、"おばちゃん"が、配達してくれるので、
貴重なご用聞きさんのような店舗でした。
入り口に、買い物かごが備えてあるわけではなく、
おばちゃん、おじちゃんに、
直接、買い物の相談と注文をするのです。
レジもあるけれど、暗算やソロバンでのお勘定。
近くに大型スーパーも増えるなか、
お店、いえいえ、おふたりの存在は町内の宝でした。
ところが、数か月前、しばらく休業続き。
聞くところによると、おばちゃんが倒れて、
先の見えない入院生活をしているとの事。
皆は、買い物の不便さよりも
人の良いおふたりのことが、気掛かりでした。
おばちゃんが元気な頃、
おじちゃんがご高齢のせいで、
商売は、おばちゃんがほぼ一人で背負っていました。
しばらく休業の後、おじちゃんがポツンと座っていたり
品物の少ないお店の通路を歩いていたり。
そんな日々が続いたのち、
少しづつですが、商品も並びはじめ、
おばちゃんが大好きだったお花も
元通りにお店を飾り、売られるようになりました
おばちゃんが、おじちゃんに
「お店は続けてね」と病床で伝えたとか・・
お客さんのこと、
一人きりで、やることがみえなくている
おじちゃんを、とても心配したのでしょう。
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お店を再開したての頃は、お店に買い物に行くと
おじちゃんが無表情で、
野菜や果物を渡してくれます。
あまり言葉のやりとりもありません。
そんなある日、娘が花を買いに行きました。
2千円の予算で、心配になるほどのお花さんが山盛り(笑)。
おじちゃんのサービスが、含まれていたのかしら。
原価を割っていないか? 心配なくらい・・
娘もおじちゃんの笑顔と明るい声を、久々に聞いたので
嬉しいいいやら、びっくりするやら。
元は、おばちゃんがお花売り場の看板娘でした。
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奇跡は、2回やってきました。
おばちゃんの復帰は難しいとも聞きましたが、
今では、二人でお店を開けています。
以前より、客さんも増えたようです。
いつお店の前を通っても、
常連さん達と、おしゃべりする二人の姿が
とっても眩しいです。
お花は、色、香り、感触の豊かな季節の貴賓客。
心を済ませば、お話もできますよ。
そんなお花に囲まれた生活は、
何か不思議な作用あるようです。
それ以来、うちの駐車場の草取りも少々ためらいがち。
この春も、タンポポが玉響(たまゆら)の間に
微笑んでいます。
綿帽子のタンポポ種がお空に飛んで行ってから
さようならをいたしましょう。
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