みなさまこんにちは。
LIXILリフォームショップ UTSUMIの内海幸子です。
今回は、私が担当させていただいたM様邸のリフォームの事例をご紹介します。
■リフォームのきっかけと経緯
M様のお住まいは、明治14年に建てられた築140年の平屋建て。
昔のお宅なのでトイレが建物の外にあり、近年は娘さんご一家が住む「離れ」のトイレを使って生活されていました。
ご主人は86歳、奥様は84歳とご高齢ですが、お二人ともとてもお元気で、ご主人は畑仕事やグラウンドゴルフなどを毎日活発にこなし、車であちこちに出かけたりもされていました。
ところが、ご主人が農作業中の事故で左足を失ってしまったのです。
事故の後、ご主人は1ヶ月半ほど入院されましたが、「早く家に帰りたい!」という思いでリハビリを一生懸命続け、退院できることになりました。
ただ、このまま退院しても、ご自宅には車椅子で生活できる環境が整っていないため、急いで家をリフォームすることになりました。
M様は私にとって遠い親戚にあたるため、さっそく当社にご相談いただき、退院後に支障なく車椅子生活を送れるようにとリフォーム計画を進めました。
■これまでの住まいの問題点と解決策
ご主人には「退院後もこれまでと変わりなく、グラウンドゴルフをしたり、車に乗ったりして活動的に過ごしたいという」強い意志がありました。
しかし、車椅子で生活するにあたり、現状の住まいでは次のような点に問題がありました。
①現状のままだと車椅子では玄関に入れない
②屋外用の車椅子とシニアカーを置くスペースがない
③トイレが家の外の離れにあり、距離が遠い
④昔ながらの浴室なので、入浴が難しい
⑤洗面台も離れていて使いづらい
⑥寝室が家の奥にあり、移動が大変
そこで、主に次のようなリフォームを行うことになりました。
①玄関にスロープを設ける
②玄関ポーチに屋外用車いすとシニアカーを置ける場所と部屋への通用口を設ける
③ご主人の居室を出入り口の隣に新たに設ける
④洗面台とトイレを寝室内に設ける
■工事の内容とポイント
ご主人は、退院後の生活に向けてシニアカーを購入。
屋外用の車椅子と室内用の車椅子、そしてベッドはレンタルで調達しました。
これらの移動手段を利用して、以前と変わりなくアクティブに暮らしたいというご主人の熱い想いを叶えるために、細部まで念入りに検討してリフォームを行いました。
【ご主人の居室】
ご自宅は築140年。床下を調べると、基礎の無い箇所も見受けられました。
ご主人の居室は、元々は居間だったところを骨組みだけにして基礎を打ち直し、土台を1から造りました。
居室の一部とトイレ・洗面スペースは、土間スペースと既に使わなくなっていた屋外のトイレをつぶして基礎を打ち、土台をつくって新設しました。また、車椅子での移動になるので、床も頑丈にしました。
完成した居室は、出入り口のすぐ横にあるので動線が短く、移動も楽々。外から帰ってきて室内用の車椅子に乗り換え、出入り口からすぐに移動できます。
しかも、一部屋で日常生活を送ることができるため、車椅子でも快適に過ごせます。
元々あったタンスの横に造作の棚も設け、収納スペースも十分に確保しました。
建具は上吊り戸にしたことで、軽くて開け閉めがラクにできます。
さらに、断熱工事と耐震工事も施し、安全で快適な空間が実現。
部屋は南に面していて、ペアガラスサッシの窓も新しく設けたので、日当たりが良く、遮熱・断熱・防音性にすぐれ、心地よく過ごせます。
【トイレと洗面台】
トイレと洗面台はワンルームにまとめ、車椅子を回転させて移動ができる広さを確保しました。クッションフロアは丈夫で傷がつきにくい車椅子専用タイプを用いています。
手すりも必要な箇所に設けてあります。トイレは病院で使っていたものと同じタイプなので、リフォーム後も戸惑うことなくすんなりと使えるようになりました。
洗面台は車椅子を洗い場の下部まで入れ込めるので、使い勝手が便利です。
また、水栓金具は非接触型のセンサー付きなので、手を差し出すだけで水が出ます。
ただし、建物の天井高が低いため、既存のサイズのミラーキャビネットが収まらず、造作のボックスをつくってキャビネットにしました。
入浴については、奥様もご高齢のため介助するのが大変なので、デイサービス施設の入浴サービスを利用することになりました。
【玄関のスロープと、車椅子・シニアカー置き場】
スロープと車椅子・シニアカー置き場は、ご主人の希望される暮らしを叶えるための必須条件でしたが、幸いなことに敷地に余裕があったため、しっかりと設けることができました。
スロープで上がって、車椅子やシニアカーを切り返してしまえる広さも十分に確保してあります。
車椅子・シニアカー置き場は、雨に濡れないように屋根を設けました。屋根は透明なポリカーボネート製なので、明るく開放的な雰囲気です。
このようにして、ご主人が車椅子でも快適に、そして活動的に暮らせる住まいを叶えることができました。
■今回のリフォームを振り返って
リハビリを1ヶ月半で終えたご主人は、すでに退院できる状態でしたが、リフォーム工事が終わるまで別の施設で1ヶ月半ほどお待ちいただく形となりました。
それでもできるだけ早くご自宅に戻り、なんとか新年をご自宅で迎えていただきたかったので、リフォームもスピーディに進める必要がありました。
ところが、昨今は全国的に住宅設備機器の入荷が遅れている状況にあり、M様邸のトイレや洗面台もなかなか入荷してこなかったので、ヤキモキする毎日でした。
その際、店長の岡田をはじめ社内のみんながL I X I Lに何度も掛け合って、なんとかM様邸分の設備を早く入荷してもらえないかと頼み込んでくれたおかげで入荷が間に合い、年内に工事を終えることができました。
本当に間に合って嬉しかったし、出荷元や社内のスタッフに感謝するばかりです。
■お施主様の入居後のご感想
年内に自宅に帰ることができ、ご主人も奥様も大変喜んでいただけました。
また、リフォーム後の住まいにも大満足で、先日ご自宅を訪ねた際も、「部屋の中もとても暖かくて快適です」とご主人が笑顔で話してくださいました。
ご主人は退院後にさっそくシニアカーに快気祝いの品を積み込んで、ご近所挨拶に回られたそうです。
また、入院中に奥様のお気遣いで、ご主人が入会していたグラウンドゴルフを退会したところ、退院後にご主人がすぐ再入会の手続きをされたとのことでした(笑)。
新しい暮らしが始まってからも、人生を謳歌しようと前向きに過ごされているご主人の姿に感銘を受けました。
■今回のリフォームを振り返って
リフォームのご相談があった当初、「80歳を過ぎてそこまで大掛かりにリフォームをしなくても・・・と思う方もいるだろうし、本当にこれだけお金をかけてリフォームを行っていいものだろうか」、「それが本当にご夫妻の幸せにつながるのだろうか」と、私自身いろいろと思い悩みました。
しかし、退院後もこれまでと変わりなく生活したいというご主人の強い想いに感服し、それにお応えできるよう一生懸命取り組ませていただきました。
もしもリフォームをしなかったら、きっとご主人の行動範囲が狭くなり、思い通りの人生を送れなかったことでしょう。
ご自身の生き方を最後まで貫き、明るく前向きに暮らしたいというご主人の願いをカタチにできて、今は本当に良かったと思っています。
今回のリフォームを通じて、お施主様の生き方や生活スタイルを既成概念で判断してはいけないということを改めて感じました。つくり手の私たちにとっても、とても意義のあるリフォームだったと思います。
LIXILリフォームショップ UTSUMIはこれからも、M様の暮らしをずっと見守り続けます。
文:LIXILリフォームショップ UTSUMI 内海幸子
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